Unreal Engineで「Pure virtual function call」というエラーに遭遇し、不安を感じているかもしれません。ご安心ください。このエラーはC++のコーディングミスや一時的なビルドの問題で発生することが多く、多くの場合、迅速に解決できます。この記事では、このエラーの原因を理解し、最も速やかに問題を解決するための具体的な手順、そして今後の再発を防ぐためのヒントをWindowsユーザー向けに解説します。
目次
1. Unreal Engine: Pure virtual function call とは?(概要と緊急度)
「Pure virtual function call」エラーは、C++のオブジェクト指向プログラミングにおける継承の概念に関連するものです。C++では、親クラスで「純粋仮想関数」として宣言された関数は、子クラスで必ず実装(オーバーライド)されなければなりません。
このエラーは、以下のような状況で発生します。
- 実装不足: 派生クラスで純粋仮想関数がオーバーライドされていない、または適切に実装されていない状態で、その関数が呼び出された。
- オブジェクトのライフサイクル問題: オブジェクトが完全に構築される前、または既に破棄された後に、純粋仮想関数を呼び出そうとした。特にUnreal Engineでは、オブジェクトの生成や破棄のタイミングが複雑になることがあります。
緊急度: このエラーは通常、アプリケーションをクラッシュさせますが、システムの深刻な破損やデータ消失に直結するものではありません。プロジェクトのビルドや実行を妨げるため、解決は必須ですが、落ち着いて対処すれば問題ありません。
2. 【最速】今すぐ試すべき解決策
このセクションでは、まず最も手軽に試せて、多くの場合に問題を解決する「プロジェクトのキャッシュクリアと再ビルド」の手順を解説します。これにより、一時的なコンパイルエラーやキャッシュの不整合が解消される可能性があります。
解決策1:プロジェクトのキャッシュをクリアし、Visual Studioで再ビルドする
この方法は、Unreal Engineのビルドシステムが生成する一時ファイルやキャッシュが原因でエラーが発生している場合に非常に有効です。
- Unreal EngineエディタとVisual Studio/Riderを閉じる: 関連するすべてのアプリケーションを終了してください。
- プロジェクトの
IntermediateおよびBinariesフォルダを削除する:プロジェクトフォルダのルートに移動し、以下のコマンドをPowerShellで実行して、不要なビルドキャッシュを削除します。# まず、カレントディレクトリをプロジェクトのルートフォルダに移動してください # 例: cd C:\Users\YourUser\Documents\Unreal Projects\MyProject Remove-Item -Path ".\Intermediate" -Recurse -Force Remove-Item -Path ".\Binaries" -Recurse -Forceまたは、エクスプローラーでプロジェクトフォルダを開き、
IntermediateフォルダとBinariesフォルダを手動で削除します。 - Visual Studioプロジェクトファイルを再生成する:プロジェクトの
.uprojectファイルを右クリックし、コンテキストメニューから「Generate Visual Studio project files」を選択します。もしこのオプションが表示されない場合、Unreal Engineのインストールディレクトリにある「
Engine\Binaries\Win64\UnrealVersionSelector.exe」を実行してみてください。 - Visual Studioでソリューションをリビルドする:再生成された
.slnファイル(例:MyProject.sln)をVisual Studioで開き、「ビルド」メニューから「ソリューションのリビルド」を選択します。これにより、クリーンな状態からプロジェクト全体が再コンパイルされます。
この手順を実行することで、一時的なビルドの問題が解消され、エラーが解決するケースが非常に多く見られます。もしこれでも解決しない場合は、コードレベルでの問題が考えられます。
3. Unreal Engine: Pure virtual function call が発生する主要な原因(複数)
「Pure virtual function call」エラーの根本原因は、ほとんどの場合、C++のコードに起因します。以下の点を確認してください。
- 派生クラスでのオーバーライド忘れまたは不完全な実装:親クラスで純粋仮想関数として宣言されているにもかかわらず、その関数が派生クラスでオーバーライドされていないか、またはオーバーライドされた関数の本体が空(
{})で、実質的に何も実装されていない場合。このエラーが最も典型的な原因です。例:
// 親クラス (例: UMyBaseActor.h) UCLASS() class MYPROJECT_API AMyBaseActor : public AActor { GENERATED_BODY() public: // 純粋仮想関数(=0 で宣言) virtual void MyPureVirtualFunction() = 0; }; // 子クラス (例: UMyDerivedActor.h) UCLASS() class MYPROJECT_API AMyDerivedActor : public AMyBaseActor { GENERATED_BODY() public: // MyPureVirtualFunction() をオーバーライドし忘れている、 // または実装が不完全な場合にエラーとなる // virtual void MyPureVirtualFunction() override; // これがないと問題 }; - オブジェクトのコンストラクタ内での呼び出し:クラスのコンストラクタ内で、まだ完全に構築されていない派生クラスの純粋仮想関数を呼び出そうとすると、このエラーが発生することがあります。コンストラクタ実行中、オブジェクトはまだ完全に自身の型として認識されていない場合があるためです。
- 無効なポインタや、既に破棄されたオブジェクトへのアクセス:Unreal Engineのガベージコレクションやオブジェクトの破棄システムにより、既にメモリから解放されたオブジェクトのポインタ(ダングリングポインタ)を通じて関数を呼び出そうとすると、無効なメモリにアクセスし、結果的にこのエラーが発生することがあります。
- DLLのバージョン不一致または外部ライブラリの問題:プラグインや外部DLLを使用している場合、それらのバージョンがプロジェクトやUnreal Engineのバージョンと互換性がないと、関数呼び出しに失敗し、このエラーに繋がることがあります。
4. Unreal Engineで恒久的に再発を防ぐには
このエラーの再発を防ぐためには、以下の開発プラクティスを心がけることが重要です。
4.1. コードの品質とレビュー
- 継承階層の理解と適切なオーバーライド:クラスを継承する際は、親クラスの仮想関数(特に純粋仮想関数)が適切にオーバーライドされているか常に確認してください。C++11以降で導入された
overrideキーワードを使用すると、オーバーライドミスをコンパイラが検知してくれるため、積極的に活用しましょう。virtual void MyPureVirtualFunction() override; // これを必ず記述する - オブジェクトライフサイクルの厳格な管理:Unreal Engineのオブジェクトはガベージコレクションされるため、
IsValid(ObjectPtr)やnullptrチェックを頻繁に行い、無効なポインタを介したアクセスを防ぎましょう。特に、オブジェクトを破棄する可能性のある処理の後には注意が必要です。 - コンストラクタでの関数呼び出しに注意:コンストラクタ内では、まだ完全に初期化されていない可能性のある仮想関数を呼び出すことを避けてください。特定の処理が必要な場合は、
PostInitializeComponents()やBeginPlay()などのライフサイクル関数を利用することを検討しましょう。
4.2. デバッグとロギングの活用
- Visual Studioのデバッガを使いこなす:エラーが発生した際は、Visual Studioのデバッガをアタッチし、クラッシュ時のコールスタックを詳細に確認してください。どのオブジェクトのどの関数呼び出しでエラーが発生したのかを特定することが、問題解決の第一歩です。
UE_LOGマクロを効果的に使用する:怪しいと思われるコードパスやオブジェクトの状態を、UE_LOGマクロを使って積極的に出力しましょう。これにより、実行時の状況を把握し、エラーの原因となっているロジックを特定しやすくなります。
4.3. バージョン管理とプラグインの管理
- バージョン管理システム (Git, Perforceなど) の活用:コードの変更は常にバージョン管理システムに記録し、問題が発生した場合はすぐに以前の安定したバージョンに戻せるようにしましょう。
- プラグインとエンジンの互換性確認:新しいプラグインを導入したり、Unreal Engineのバージョンをアップグレードしたりする際は、互換性を十分に確認し、問題が発生しないかテスト環境で検証するようにしましょう。
これらの対策を講じることで、「Pure virtual function call」エラーの発生を大幅に減らし、より安定した開発環境を構築できるでしょう。焦らず、一つずつ原因を特定し、着実に解決していきましょう。