Tenable Nessusで脆弱性スキャンを実行中に「Plugin timeout」エラーに遭遇することは、セキュリティエンジニアや運用担当者にとって珍しいことではありません。このエラーは単なる設定の問題に留まらず、重要な脆弱性の見落としや、最悪の場合、スキャン対象システムへの予期せぬ負荷を引き起こす可能性を秘めています。
この記事では、15年以上の経験を持つシニアITエンジニアの視点から、この「Plugin timeout」エラーの真の原因を掘り下げ、即座に実行できる解決策から、将来的な再発を防ぐためのシステム設計・運用アドバイスまで、具体的なHTML形式で解説します。
目次
結論:最も速く解決する方法
Plugin timeoutエラーが発生した場合、多くの場合、スキャンポリシーの設定最適化によって即座に解決可能です。以下の手順を上から順に試してください。
- スキャンポリシーのタイムアウト設定を延長する:
Nessusのデフォルトのプラグインタイムアウトは、複雑なチェックや応答の遅いターゲットに対して短すぎる場合があります。- Nessus Web UIで該当のスキャンポリシーを編集します。
- 「Settings」タブの「Advanced」セクションに移動します。
- 「
plugin_timeout」の値をデフォルトの320秒から、例えば600秒や900秒に延長します。警告: 値を極端に長くしすぎると、スキャン全体の所要時間が大幅に増大する可能性があります。状況に応じて調整してください。 - 「
global_plugin_timeout」も同様に調整を検討します(こちらはすべてのプラグインに影響します)。
- 同時実行プラグイン数およびホスト数を削減する:
スキャナーやターゲットシステムの負荷を軽減し、個々のプラグインがタイムアウトする確率を減らします。- 「Settings」タブの「Performance」セクションに移動します。
- 「
max_checks_per_host」(ホストごとの最大同時チェック数)の値を減らします(例: デフォルトの5から2や3に)。 - 「
max_hosts_per_scan」(スキャンごとの最大同時ホスト数)の値を減らします。
- 特定プラグインの無効化またはグループ化されたスキャン:
問題を起こしている特定のプラグインが特定できている場合、そのプラグインを一時的に無効化し、別途個別に実行してみることも有効です。また、大規模なスキャンを小さなセグメントに分割して実行することで、個々のスキャンに集中させることができます。
上記の手順を適用し、再度スキャンを実行してエラーが解消されるか確認してください。
【プロの視点】このエラーの真の原因と緊急度
「Plugin timeout」は単なるタイムアウト表示ですが、その裏には複数の要因が複雑に絡み合っていることが多いです。現場のトラブルシューティングでは、表面的な現象だけでなく、その深層にある原因を見極めることが重要です。
真の原因の深掘り
このエラーが発生する主な原因は以下のいずれか、またはその組み合わせであることがほとんどです。
1. ネットワークの遅延・遮断:
* ネットワークボトルネック: スキャン対象が遠隔地にある場合や、ネットワークインフラが貧弱な場合、パケットロスや高遅延が発生し、プラグインの応答が期待時間内に戻らないことがあります。
* セキュリティデバイスの介入: ファイアウォール、IDS/IPS、WAFなどがNessusのスキャンアクティビティを「攻撃」と誤認識し、通信をブロックしたり、レートリミットをかけたりすることが頻繁に発生します。これにより、プラグインの通信が途中で切断されたり、極端に遅延したりします。
2. スキャン対象システムのリソース不足:
* スキャン対象のサーバーやネットワークデバイスが、Nessusの広範囲なチェックに対応できるだけのCPU、メモリ、ディスクI/O、ネットワーク帯域のリソースを持っていない場合、応答が遅延し、タイムアウトが発生します。特に、脆弱なサービスやパッチ未適用のシステムは、Nessusの特定のチェックによって過負荷になることがあります。
3. Nessus Scannerのリソース不足または設定不備:
* Nessus Scanner自体が、同時に多数のホストやプラグインを処理するのに十分なCPU、メモリ、ディスク容量、ネットワークインターフェースの性能を持っていない場合、スキャナー側の処理が遅延し、プラグインがタイムアウトすることがあります。
* プラグインによっては、特定の通信プロトコルやポートを使用します。スキャナーからこれらのプロトコルやポートへのアクセスがネットワーク的に許可されていない場合もタイムアウトの原因となります。
4. 認証情報の不備または権限不足:
* 対象システムに認証して詳細なチェックを行うプラグイン(例: パッチ適用状況確認、設定ファイル解析)の場合、提供された認証情報が間違っているか、必要な権限を持っていないと、何度も認証を試行したり、期待する情報が取得できずにタイムアウトすることがあります。
5. 特定のプラグインの特性:
* 一部のプラグインは、そのチェック内容の複雑さや、対象システムへの影響を考慮して、通常よりも長い時間を要する場合があります。例えば、データベースへの接続テストや、特定のWebアプリケーションの脆弱性診断プラグインなどがこれに該当します。
緊急度
「Plugin timeout」エラーの緊急度は中〜高です。
* 中: 多くのタイムアウトが発生している場合、スキャン結果が不完全になり、本来検出されるべき脆弱性が見逃されるリスクが高まります。 これは組織のセキュリティリスクを直接的に増大させます。
* 高: タイムアウトの原因がスキャン対象システムへの過負荷にある場合、サービスの停止やパフォーマンス劣化といった運用上の問題を引き起こす可能性があります。特に本番環境でこの現象が発生すると、ビジネスインパクトは甚大になります。
このエラーは単に「スキャンが終わらない」というだけでなく、「重要なセキュリティ情報が欠落している」という問題であることを強く認識し、速やかに対応する必要があります。
詳細な解決策とトラブルシューティング手順
前述の即時解決策で解消されない場合や、根本原因を特定するためには、以下の詳細な手順でトラブルシューティングを進める必要があります。
- Nessusスキャンログの確認:
どのプラグインが、どのホストでタイムアウトしているかを特定します。- Nessus Web UIで該当スキャンの結果を表示し、「History」または「Report」セクションから詳細なログを確認します。
- Nessus Scannerのシステムログ(
/opt/nessus/var/nessus/logs/nessusd.messagesなど)も参照し、エラー発生時の詳細な状況を確認します。
ヒント: 特定のプラグインIDが繰り返しタイムアウトしている場合、そのプラグインの動作特性をTenableのドキュメントで確認し、一時的に無効化してスキャンを完了させることも検討してください。
- ネットワーク経路の診断:
Nessus Scannerからスキャン対象ホストへのネットワーク疎通状況を詳細に確認します。- スキャナーからターゲットホストへ
pingコマンドを実行し、応答時間とパケットロスを確認します。
ping [ターゲットIP] traceroute(Windowsではtracert) コマンドを実行し、途中のホップでの遅延や到達不能な箇所がないか確認します。
traceroute [ターゲットIP]- ファイアウォール、IDS/IPSなどのログを確認し、Nessus Scannerからの通信がブロックされていないか検証します。必要に応じて一時的に除外設定を試します(警告: 運用リスクを理解した上で最小限の範囲で実施)。
- スキャナーからターゲットホストへ
- 対象システムのリソース監視:
スキャン実行中に、対象システムのCPU、メモリ、ディスクI/O、ネットワーク帯域の使用率を監視します。- Linux系OSであれば
top,htop,iostat,netstatなど。 - Windows系OSであればタスクマネージャーやパフォーマンスモニター。
ヒント: スキャンによって特定のサービスがクラッシュしたり、応答しなくなったりするケースも稀にあります。その場合は、対象サービスのログも確認してください。
- Linux系OSであれば
- Nessus Scannerのリソース監視:
Nessus Scanner自体のリソース状況も確認します。- Scannerが動作しているサーバーのCPU、メモリ使用率を確認します。
- ディスクI/Oや空き容量も確認します。
考慮点: 大規模なスキャンを実行する場合、Scannerには十分なリソース(特にCPUコアとRAM)が必要です。Tenableの推奨スペックを確認し、必要に応じて増強を検討してください。
- 認証情報の再確認と権限の検証:
認証情報を利用するスキャンポリシーの場合、設定されているクレデンシャルが正しいこと、そして必要な情報を取得するための十分な権限が付与されていることを改めて確認します。- 手動でSSHやRDP接続を試行し、認証情報が有効か確認します。
- 取得したい情報(例: パッチ情報、ソフトウェアインベントリ)に対する読み取り権限が、認証ユーザーに付与されているかを確認します。
- スキャンポリシーの最適化(再検討):
- 特定のポートのみスキャン: 「Port Scan Range」を必要なポートのみに限定することで、スキャン時間を短縮し、不要なチェックを減らします(例:
21,22,23,80,443,3389)。 - 特定のプラグインファミリーのみ有効化: 最初は「General」や「Vulnerability Information」など基本的なプラグインファミリーに限定し、後から段階的に追加することで、問題のあるプラグインを特定しやすくなります。
- テンプレートの活用: Nessusには「Basic Network Scan」や「Advanced Scan」など様々なテンプレートがあります。目的に応じて最適なテンプレートを選択し、そこからカスタマイズすることで、効率的なポリシーを作成できます。
- 特定のポートのみスキャン: 「Port Scan Range」を必要なポートのみに限定することで、スキャン時間を短縮し、不要なチェックを減らします(例:
再発防止のためのシステム設計・運用アドバイス
エラーの一時的な解消だけでなく、再発防止のためにプロとして考慮すべき設計・運用上のポイントを以下に示します。
1.
Nessus Scannerの適切なサイジングと配置
* リソース計画: スキャン対象の規模、同時スキャン数、スキャン頻度に応じて、Nessus Scannerが十分なCPU、メモリ、ストレージ、ネットワーク帯域を持つように設計します。Tenableの推奨スペックはあくまで最低限であり、大規模環境ではそれ以上のリソースが必要となることがほとんどです。
* ネットワーク配置: スキャン対象システムとの間に不要なネットワークホップやセキュリティデバイスを挟まないように、Nessus Scannerを論理的・物理的に適切な位置に配置します。可能であれば、各セグメントにNessus Scanner(またはNessus Agent)を分散配置することも検討してください。
2.
スキャンポリシーの体系的な管理と定期的な見直し
* テンプレート化と標準化: 用途(例: 内部サーバ用、外部公開Web用、データベース用)に応じたスキャンポリシーテンプレートを作成し、それを標準化することで、設定ミスやポリシーのばらつきを防ぎます。
* 定期的なレビュー: 半年に一度など定期的にスキャンポリシーを見直し、現在の環境や脅威トレンドに合致しているか、不要なプラグインが有効になっていないか、タイムアウト設定が適切かを確認します。
* 影響評価: 新しいプラグインファミリーを有効化する前や、大規模な設定変更を行う前には、開発・テスト環境で影響評価スキャンを実施し、本番環境への影響を最小限に抑えます。
3.
ネットワークインフラの健全性維持とスキャン時の配慮
* 帯域の確保: 大規模スキャン時はネットワーク帯域が消費されます。スキャン時間帯とネットワークインフラの混雑状況を考慮し、十分な帯域が確保されていることを確認します。
* セキュリティデバイスとの連携: ファイアウォール、IDS/IPSなどのネットワークセキュリティデバイス管理者と密に連携し、Nessus Scannerからの通信が正当なものとして扱われるよう、ルールやホワイトリストを設定します。定期的なスキャンは「通常業務」と認識させることが重要です。
4.
脆弱性管理プロセスの確立
* 結果のレビュー: スキャン結果は単にレポートを生成するだけでなく、定期的にレビューし、タイムアウトが発生しているプラグインやホストがないかを確認します。
* 継続的なチューニング: タイムアウトやスキャン失敗が頻発する環境に対しては、根本原因を特定し、スキャン設定のチューニングや環境改善を継続的に行います。これは一度やったら終わりではなく、運用サイクルの不可欠な一部です。
5.
対象システムへの影響評価とキャパシティプランニング
* 影響度分析: スキャン対象システムが本番稼働中の場合、Nessusスキャンがどの程度の負荷を与えるかを事前に評価します。ピークタイムを避け、閑散期にスキャンを実行するなどの運用計画を立てます。
* リソース拡張計画: 脆弱性スキャンだけでなく、通常の業務負荷も考慮し、対象システムのCPU、メモリ、ネットワーク帯域などを適切に計画・増強します。スキャンが原因でシステムが不安定になるような事態は、本末転倒です。
まとめ
Tenable Nessusの「Plugin timeout」エラーは、一見するとシンプルなエラーですが、その解決にはネットワーク、システムリソース、Nessusの設定、さらにはセキュリティ運用プロセス全体にわたる深い理解が求められます。
即時解決策を試すだけでなく、本記事で解説したプロの視点に基づいたトラブルシューティングと再発防止策を実践することで、単にエラーを解消するだけでなく、より堅牢で効率的な脆弱性管理体制を構築することができます。継続的な監視と改善こそが、セキュリティ運用の成功への鍵となるでしょう。